当意見は、本レポートおよび関連ウェブサイトの記載内容、および同社の調達、人事、総務、品質、安全、CSR の各担当者へのヒアリング、および三重工場における生物多様性保全関連活動の現場視察に基づいて執筆しています。
同社のCSR への取り組みは、環境負荷の削減を中心に、PDCA※1(マネジメント・サイクル)を進め始めていると言えます。
※1 PDCA :
業務の改善を図るため、計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Act)のプロセスを繰り返す手法
IIHOE
人と組織と地球のための国際研究所
代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人
IIHOE : 「地球上のすべての生命にとって、民主的で調和的な発展のために」を目的に1994年に設立されたNPO。主な活動は市民団体・社会事業家のマネジメント支援だが、大手企業のCSR支援も多く手がける。
http://blog.canpan.info/iihoe/(日本語のみ)
高く評価すべき点
- 生物多様性の保全について、2010年度に実施された国内外計30拠点での事業所周辺予備調査を踏まえて、三重工場など国内7拠点で、従業員によるワークショップや地域住民への説明会、広域的な生物多様性・生態系保全活動が自律的に進められるなど、生態系に自社が与える正負両面の影響を正確に理解して取り組みを進めていること。特に三重工場において活動に参加する、主に管理職層で構成されるメンバーが、自発的かつ継続的にモニタリングに参加していることを、高く評価します。今後は、海外の事業所にも着実に同様の取り組みが広がることを期待します。
- 「 YOKOHAMA千年の杜」プロジェクトについて、開始から7年間で、生物多様性の維持・改善に配慮した植樹を国内外で37万本以上行うとともに、その苗木の栽培も自社内で行い、国内では14年度は93%を社内供給するとともに、自治体や他社にも累計で27万本以上提供していること。特に、東日本大震災の被災地における「いのちを守る森の防潮堤」づくりに率先して協力していること。森林生態系や緑地の維持・改善のための社会貢献プログラムとして、世界最高の水準にあると高く評価するとともに、今後は、「YOKOHAMA 千年の杜プロジェクト」サイトが、同様の取り組みを進める他社事例も網羅的に紹介するポータルサイトへと進化することも引き続き期待します。
取り組みの進捗を評価しつつ、さらなる努力を求めたい点
- コーポレート・ガバナンスとCSR 推進体制について、創業100周年を迎える17年までの中期目標を定め、ISO26000※2を参照した重要成果指標(KPI)を設けて取り組みを進めていることを評価しつつ、今後は、同年以降の世界市場における自社のポジションを具体的に想定した体制の整備、特に、グローバルで多様な価値を経営の判断や実践に織り込むために、国内外の現場からのボトムアップによる目標や施策が促されることを、引き続き強く期待します。報告やコミュニケーションについても、国内外のグループ会社の取り組みをさらに詳細に紹介するとともに、三重工場において生物多様性に関して始められたのと同様に、事業上の重要地域においてNPOなどと継続的な対話の機会を設け、ISO26000が求めるステークホルダー※3・エンゲージメントが促されることを期待します。その観点から、全社的なCSRの推進に関する対話の機会に、事業部門の責任者との意見交換の場の設定を求めます。
- 品質保証の推進体制について、同社に連絡した顧客へのフィードバックに要する時間を半減できるよう体制整備を進めていることを評価しつつ、今後は、顧客に与える影響の最小化を経営指標に織り込むなど、さらに定量的かつ効果的な取り組みが進むことを期待します。
- 環境負荷の削減について、再生粉末ゴムの使用量が前年比で約3%増加するなど、製品による環境負荷削減が進んだこと、廃棄物発生量とGHG排出量は前年比で改善し中期目標を達成しつつあることを評価しつつ、今後は、「生産量の変動に適応しうるエネルギー使用の非固定化」(エネルギーのジャストインタイム)について、手法と可視化の精度向上を進め、部門間や海外拠点でも体制の共有が進むことを、引き続き強く期待します。
- 調達先におけるCSRについて、主要国で取引先のためのCSR勉強会を継続して開催し、調達先による自主診断を5年ぶりに実施し、その結果などに基づく表彰制度が設けられていることを評価するとともに、今後は調達先による取り組みの改善をさらに効果的に促すために、より詳細な取り組み状況の把握と、事例の共有、課題解決に向けて交流する体制が整えられることを、引き続き強く期待します。
- 従業員の安全について、13年度に把握され、その初期処置や報告にも問題があった重大災害について、調査と是正が進められ、全社展開を行った結果、全国産業安全衛生大会において会長賞を受賞したことを評価するとともに、今後は、設備仕様に安全の改善を必ず織り込み、安全向上への取り組みそのものの実効性を高めるための評価と改善の進捗報告を、引き続き求めます。
- 働き続けやすさの向上について、育児・介護のための休暇・休職・短時間勤務制度の利用者が横浜ゴム(株)従業員の3.67%に達したこと、介護休職者にヒアリングを行ったことを評価しつつ、今後は、急増が避けられない介護休業に備えるため、その取得経験者の事例紹介などの勉強会をはじめとした「休みながら働き続けられる」環境の確立に、引き続き強く期待します。また、メンタル面でのケアについても、全従業員対象のストレス診断の実施を評価しつつ、今後は、仕事以外の困りごとも含めて「何でも相談できる」窓口の設置・活用など、より効果的な対策が進むことを期待します。さらに、定年者の再雇用が進んでいることを評価しつつ、再雇用された方々が暮らす地域への参加・参画も促されることを期待します。
- グローバル企業としての人的ポートフォリオの拡充について、海外グループ企業の主要マネジメント層職位の育成強化に着手したことを評価しつつ、今後も10年以上先の市場とポジショニングを見据えた長期的な目標と戦略に基づき、本社の次世代の経営層育成がグローバルに加速されることを強く期待します。
- 障碍のある従業員の雇用について、法定雇用率が達成され、職務領域も拡大しつつあることを評価しつつ、今後は障碍を持つ従業員の勤続年数をより長期化するための施策がさらに積極的に行われることに、引き続き期待します。
※2 ISO26000 :
ISO(国際標準化機構)によって発行された、企業など組織の社会的責任に関する手引き
※3 ステークホルダー :
民間企業など、あらゆる組織が活動を行う上でかかわる個人・団体、利害関係者