「あらゆる面で地球環境に貢献するエコタイヤ」をめざした、YOKOHAMAのエコ・フラッグシップタイヤ「DNA dB super E-spec」。その開発はどのような経緯で始まったのだろうか。製品企画を立ち上げた伊藤邦彦はいう。
「製品企画を決定したのは2006年の春でした。このタイヤを発売する予定の2007年は、当社がDNAシリーズを初めて世に送り出した1998年から数えてちょうど10年目にあたります。そこでエコタイヤ誕生10年の節目を飾るにふさわしい、記念碑的なタイヤを作ろうというのが出発点でした」
 当時は地球温暖化が世界的なテーマとしてクローズアップされ始めた頃。世の中が環境に対して敏感になり、ハイブリッドカーなど環境に優しいクルマも増えてきた。となると当然、これまで以上にタイヤにも環境性能が求められるという読みもあった。
「今回のタイヤは、広い意味でエコタイヤのシンボルになるものにしたい。それには単に低燃費であるだけでなく、高い快適性能を併せ持つことも必要だと考えました。そこでDNAシリーズでも最も静粛性の高いDNA dB ES501をベースに、さらに省燃費性能を高めたスペシャルタイヤを作る企画を立てたわけです」
 伊藤が企画書に書き込んだポイントは二つあった。一つは、タイヤのころがり抵抗を、従来商品のDNA dB ES501比で20%以上低減させること。タイヤのころがり抵抗が減れば、クルマを走らせるために必要なエネルギーが小さくなり、燃費向上に効果がある。そしてもう一つは限りある石油資源への依存度を低減するために、タイヤの石油外資源比率を80%以上にするということだった。




 しかし伊藤から新タイヤ開発の打診を受けた設計リーダーの野呂政樹は、当初、この企画に抵抗したという。「ころがり抵抗を20%減らすことだけでも簡単ではないのに、今回は材料まで指定されている。それを1年もかけずに開発しろというのですから、いくらなんでも無茶だ、といった覚えがあります」
「ころがり抵抗20%減」と口でいうのは簡単だが、その実現はそう簡単なことではない。ころがり抵抗とグリップ力はトレードオフの関係にあり、単純にころがり抵抗を下げるだけではグリップ力が落ちて滑りやすいタイヤになってしまう。いかにしてグリップ力を維持しつつ、ころがり抵抗を減らすかは、タイヤ開発における永遠のテーマといえる。
 しかも横浜ゴムは従来からころがり抵抗の低減に取り組んできており、新タイヤの比較対象となっているDNA dB ES501自体、過去モデルからころがり抵抗を低減させてきたタイヤである。そこからさらに20%低減させるということは、過去モデルと比べると30%以上の低減ということであり、極めて高い目標値だといえる。しかもそれを石油外資源比率の向上と同時に進めなければならないのだ。
 しかしハードルが高ければ高いほど技術者魂が燃えるのも事実。「簡単ではありませんが、当社が培ってきた技術を結集すれば、ある程度のところまではできるだろうというイメージはありました。ならばやってみようということで走り出したわけです」
 こうして新しいエコタイヤ開発プロジェクトが動き出すことになったのである。